■日本におけるギャンブル依存症の実態
日本はギャンブル大国です。カジノが許可されていないのに?と実感を持てない人も多いと思います。しかし、公に認められている賭け事に公営ギャンブル(競輪・競馬・競艇・オートレース)、宝くじ、totoなどのスポーツ振興くじがあり、リクリエーションの名のもとに黙認されているギャンブルにパチンコがあります。
これらの市場規模は約30兆円、国の総予算の30%超えています(2014年一般会計予算額約96兆円)。ギャンブルを行っている人の数も6500万人と総人口の半数がギャンブルに参加していることになります。数値に現れている分だけをみても立派なギャンブル大国です。
2017年厚労省はギャンブル依存症の実態把握のために面接調査を行いました(20〜74歳成人1万人)。ギャンブル依存症の疑いがある、またはギャンブル依存症と疑われたことがあると答えた人は全体の3.6%、2016年に行われた同様の調査から0.9ポイントアップしています。これを国税調査結果と照らし合わせると約320万人もの人がギャンブル依存症の疑いがあることになります。ギャンブルのくくりに入っていないゲームセンターやオンラインゲームの課金、調査から外れている年齢層まで考えればこの割合は更に高くなります。
■政府が検討するカジノ規制
この数値は諸外国に比べてもかなり高い割合です。ここにさらにカジノを加えることを可能にするのが2016年に可決されたIR法です。カジノを中心とした統合型リゾート(Integrated Resort)の経済効果は6兆円といわれます。今までと合わせると36兆円。国の予算の3分の1以上の金額をギャンブル市場が占めることになります。
経済をそこまでギャンブルに頼っていいのか、これ以上、ギャンブル依存症患者を増やしていいのか、カジノ経営に一定の歯止めをかけるため、IR法施行後1年以内に「首相を本部長とする推進本部の設置」「カジノ規制の基準づくり」「ギャンブル依存症対策」を盛り込んだ実施法案を策定する義務が課せられています。
政府が検討している対策は、
・カジノ入場回数の制限
・カジノ入場料の設定
・区域の認定数制限
・カジノの置かれる「ゲーミング区域」面積の上限規制(カジノはIRの一部施設という位置づけにするため)
・カジノ収入に課せられる納付金(カジノ税・カジノ事業者が支払う)
などです。
政府与党はワーキングチームを設置してカジノ規制を協議しています。しかし、それに先行して既存のギャンブル依存対策をすすめる必要があり協議は難航しています。
■進まないカジノ規制協議
協議されている内容を見てみると……
・カジノ入場回数の制限
「月短期の回数制限のみにしたい」、「連続7日間で3回まで、連続する28日間で10回まで」
・カジノ入場料の設定
「2000〜5000円」、「シンガポール並みの8000円または10000円」、「過度の負担にならない水準に」
・区域の認定数制限
「上限を明示しない」、「2〜3カ所」、「もっと幅を持たせて欲しい」
・「ゲーミング区域」面積の上限規制
「IR施設全体の3%まで、最大面積は15,000平方メートル」
・カジノ収入に課せられる納付金(カジノ税)
「一律30%」、「利益によって納付率を上げる累計型」「納付金が高くなる累計型は適さない」
と、面積の上限規制以外では政府与党内でも足並みが揃っていません。これは「既存のギャンブル依存対策法案すら審議入りしていない状態でカジノ法案の議論を進めるわけにはいかない」という声が強いからです。
IR法は日本経済再生の切り札ともいわれますが、経済再生のために破綻に追い込まれる人が増えてしまうのでは意味がありません。これをちょうど良い機会としてギャンブル依存症対策に対する協議を更に深め、確実に実行して欲しいと思います。