■海外のカジノの今
海外カジノの売上ランキングは
1位マカオ:3兆4,790億円
2位ラスベガス:1兆3,000億円
3位シンガポール:6,000億円
(2015年)
です。
カジノやIRの収益を支えているのは海外からの観光客です。ここ数年で中国経済の発展の恩恵を受けたアジア地域のマカオ、シンガポールが台頭し、競争が激化してラスベガスを筆頭に欧米のカジノ・IRの収益は縮小しています。韓国、ベトナム、フィリピンでもIRの開設・開発が進んでいます。
新進であるシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」「リゾート・ワールド・セントーサ」は成功例といわれています。しかし、運営しているのはアメリカのカジノ運営会社ラスベガス・サンズ、大成功した売上の多くは結局ラスベガスに流れていると思うと複雑です。
■カジノのもたらす光と闇
シンガポールはずっと賭博を禁じてきました。議論の結果、2005年にマリーナベイ・サンズがオープン。そのおかげで約1万人の働き場所ができ、観光客が6割、観光収入も8割増加しました。カジノが生み出す収益がコンベンションセンターといった文化施設の運営を支え、施設使用料金を抑えることで利用率も上がるという好循環を生み出しています。
対して、韓国の江原(カンウォン)ランドは、失敗例として取りあげられることが多いIRです。ここは、鉱山の跡地開発で作られた国内で唯一韓国人が入場できるカジノがあるIRで(※)、地域発展の核になると期待されました。
※韓国には17カ所のカジノがありますが、韓国の人が入場できるのはここだけです。
ソウルから200kmという不便さをカバーするために宿泊施設も充実した統合リゾートをつくったにもかかわらず、蓋を開けてみると入場者の9割以上が自国民で期待していた外国人観光客はほとんど訪れません。
雇用が増え、売上も1,000億円を超える効果があり、街は潤ったのですが、今、街で目立つのはカジノ客を当て込んだ質屋ばかりです。カジノに入れ込んだあげく乗ってきた車まで質に入れ、家族からの送金も滞ってホームレスになる人も少なくありません。治安も悪化しています。
■カジノへの期待と不安
IRは日本の地域活性の切り札だという声があります。かつては技術力を誇り、もの作り大国であった日本の衰退を考えると、これからの経済を支えるために観光客誘致の重要性は否めません。それだけに効果の見えやすいIR_カジノに対する期待は大きくなっています。
外国人観光客の増加、近隣への波及経済効果、雇用の増加、税収増加、インフラ整備などによる地域活性の起爆剤になるとされ、すでに大阪、東京、沖縄、北海道など30を越える自治体が候補地として声をあげています。
反面、ギャンブル依存症の拡大が懸念されています。
世界のカジノ市場の規模は18兆円、かなり大きな市場です。しかし、日本のパチンコ市場(※)はそれを上回る23兆円の規模に膨れ上がっています。加えて競馬などの公営ギャンブルも認められていることを考えると、日本はすでにギャンブル大国になっている、といえます。カジノ解禁の前に「ギャンブル依存症の温床になっているパチンコ・スロットをきちんと取り締まらなくてはいけないのではないか」という声も高まっています。
※パチンコやスロットは賭博ではないことになっています。景品交換と称して現金を手に入れるのは本来は違法行為ですが、黙認されているのが現実です。
テーマパークやアウトレットモールができると雇用は生まれますが、サービス業の若年層を優先する傾向が改善されない限り、若い世代の使い捨ての場になるだけで地域で生涯暮らしていくための基盤にはなりません。
経営の中心になるカジノも海外観光客によって収益が大きく左右されることを考えると、決まった数のパイをアジア諸国と取り合うことになるため、後発の日本は地域の特性を活かしたIRづくりで、他との差別化を目指さないといけません。全国に乱立するショッピングモールやアウトレットモールのようなどこに行っても同じで、訪れた人が施設内で娯楽も買い物も食事も宿泊も済ませて帰ってしまうようでは、税収増加や一時的な雇用の促進にはなっても周辺の地域活性には繋がりません。
現在、IR法を実施するために義務づけらたカジノ規制やギャンブル依存症対策の議論が続いています。規制と対策に加えて、どうやって日本の独自色を出し、地域の文化を壊すことなく発展させていくのか充分に議論を尽くして欲しいと思います。